Number Resource Society
APNICとは――IP資源、会員の権利、意思決定への参加
アジア太平洋地域の登録機関の仕事を知り、ポリシーの議論と会員投票を区別する。ネットワークの継続と代表への委任を考えるための解説です。
2025年4月16日公開のNRS英語原文をもとに、日本語で内容全体を書き直しました。二つの表、七つのFAQ、引用先を引き継ぎ、2026年10月5日の確認内容を補っています。追加の説明を、原文の公開時点の発言として扱うものではありません。
APNICとは――アドレスの登録とネットワークの意思決定
APNIC(Asia Pacific Network Information Centre)は、アジア太平洋地域の地域インターネットレジストリです。IPv4・IPv6アドレスとAS番号を分配・登録し、登録情報や経路情報に関するサービスを提供しています。経路の安全性を支え、番号資源のポリシーをコミュニティが議論する場も担います。
APNICがインターネット全体を運営したり、通信を制御したりするわけではありません。ドメイン名の登録機関でもなく、担当するのは地域内のネットワークが使う番号資源の管理と登録です。
原文で紹介されている関連資料
ARINとAPNICのポリシーがインターネット接続に与える影響
APNICは何の略?
正式名称はAsia Pacific Network Information Centreです。日本語ではアジア太平洋ネットワーク情報センターと呼ばれます。
会員を基盤とする、開かれた非営利組織です。ネットワークが急速に増え、地域ごとの登録体制が整備される中、1993年に設立されました。
世界には五つの地域インターネットレジストリがあり、APNICはその一つです。
| レジストリ | 担当地域 |
|---|---|
APNIC | アジア太平洋 |
AFRINIC | アフリカ |
ARIN | 米国、カナダ、カリブ海地域の一部 |
LACNIC | 中南米、カリブ海地域の大部分 |
RIPE NCC | 欧州、中東、中央アジアの一部 |
各レジストリは担当地域の資源とポリシーを扱います。五つに共通する課題の調整は、Number Resource Organization(NRO)が担います。
全体の役割分担については、NRSの地域インターネットレジストリ解説も参照してください。
どの地域を担当している?
APNICの公式一覧には56の国・地域が掲載され、東アジア、南アジア、東南アジア、オセアニアの四つに区分されています。英語原文は中央アジアも一般的な区分として挙げていましたが、本版では公式一覧に基づき訂正しています。個別の管轄は地理的な呼称だけで判断せず、一覧で確認する必要があります。
一部の国・地域では、国別インターネットレジストリ(NIR)を通じて番号資源のサービスを提供しています。APNICの一覧には次の七つがあります。
- インドネシア:APJII。
- 中国:CNNIC。
- インド:IRINN。
- 日本:JPNIC。
- 韓国:KISA。
- 台湾:TWNIC。
- ベトナム:VNNIC。
NIRはそれぞれ別の組織です。APNICのポリシーに従い、地域の言語や実情に合った手続きで登録・資源分配を行います。
APNICの主な仕事
中心となる仕事は、担当地域のインターネット番号資源の分配と登録を管理することです。
ネットワーク同士が衝突なく通信するには、世界的に調整された識別子が必要です。IPアドレスとAS番号は、そのための基盤です。
1.IPv4アドレスの分配と登録
IPv4アドレスは32ビットの識別子で、インターネットに接続する機器、サーバー、ネットワークに使われます。
APNICはコミュニティが策定したポリシーに従い、条件を満たす事業者へ利用可能なIPv4アドレスを分配します。ただし、新規分配に使える在庫は限られています。
確認したポリシーでは、各アカウントが最後の103/8プールから受け取れる総量は、累計で最大/23、つまり512アドレスです。毎年更新される枠ではなく、適正な移転による保有量全体の上限でもありません。追加需要には移転の条件を別途検討します。
IPv4の移転には、移転元・移転先それぞれの条件があります。移転先には通常、必要性の説明も求められます。当事者間の売買契約だけで、レジストリの移転手続きが完了するわけではありません。
2.IPv6アドレスの分配と登録
IPv6はIPv4よりはるかに広いアドレス空間を持ち、IPv4枯渇への長期的な対応手段です。
APNICは条件を満たす組織へIPv6を割り振り・割り当てします。IPv4の割り振りを受けているアカウントは/32、割り当てを受けているアカウントは/48のIPv6資源の資格条件を満たし得ます。ただし自動交付の保証ではなく、より大きな申請には別の基準が適用されます。
IPv6資源を取得しても、導入はそこで終わりません。経路制御、セキュリティ、監視、DNS、設備全体の対応を進める必要があります。
3.AS番号の割り当て
AS番号(ASN)は、一貫した経路制御方針で運用されるネットワーク、またはネットワーク群を識別します。
ISP、データセンター、クラウドなどの独立したネットワークがBGPで経路情報を交換する際に、AS番号を使います。
マルチホーム接続を行うネットワークや、他のASとの相互接続が必要なネットワークは、申請資格を満たし得ます。取得後ほどなく条件を満たすことを示せる場合も対象になります。
資源を取得した後のサービス
APNICの仕事は番号を発行するだけではありません。事業者が資源を登録・管理・確認し、経路として利用するためのサービスも提供します。
APNIC WHOISデータベース
公開のWHOISデータベースでは、APNICの登録体系にあるIPアドレス範囲やAS番号の情報を検索できます。
検索結果には、例えば次の情報が含まれます。
- アドレス範囲を担当する組織。
- 登録されたネットワーク名。
- 管理・技術担当者の連絡先。
- 不正利用の通報先。
- 割り振り・割り当ての情報。
- 経路に関するオブジェクト。
- 逆引きDNSの情報。
資源保有者は登録情報を正確に保つ責任があります。その情報が、他の事業者による障害調査、担当者への連絡、不審な活動の確認を支えます。
NRSでは、APNIC WHOISの記録の読み方も別の記事で解説しています。
登録情報を照会するRDAP
RDAP(Registration Data Access Protocol)は、登録情報の取得に使う比較的新しいプロトコルです。
構造化された応答、標準化された照会、他レジストリへの参照、多言語の登録データへの対応を備えています。資源が別のレジストリの管轄なら、適切な情報源へ案内できます。
WHOISも広く使われていますが、RDAPは応答形式が統一されており、ソフトウェアで処理しやすいという利点があります。
資源認証基盤RPKI
APNICはRPKI(Resource Public Key Infrastructure)のサービスを提供しています。
RPKIは番号資源の情報と暗号技術による信頼の仕組みを結びます。保有者はROA(Route Origin Authorisation)を作成し、どのASに特定のIPプレフィックスの経路広告を認めるかを示せます。
事業者はその情報を使って経路の起点を検証し、不正な広告を見分けます。設定ミスや経路ハイジャックの一部のリスクを減らす助けになります。
RPKIがすべての経路の安全を保証するわけではありません。各ネットワークが経路を判断するための、検証可能な情報を提供します。
経路登録データベースIRR
APNICのIRRは、世界に分散したインターネットルーティングレジストリの一部です。
事業者は経路方針や経路オブジェクトを公開し、他のネットワークがフィルター、設計、ルーター設定などに利用します。障害調査や、認められた経路関係の記録にも役立ちます。
IRRの経路オブジェクトとRPKIのROAは、関連はあっても同じものではありません。経路の安全対策では、両方を併用することがよくあります。
逆引きDNS
APNICは、管理するIPv4・IPv6アドレス空間の逆引きDNSを委任します。
逆引きはIPアドレスからホスト名を調べる仕組みです。APNICから該当ゾーンの委任を受けた資源保有者が、PTRレコードを設定します。
メール、ログの確認、障害調査、セキュリティ点検、日常のネットワーク管理などで使われます。
研修と技術支援
APNICは研修、研究、会議、運用支援、コミュニティ向けのプログラムも実施しています。
IPv6、BGP、経路セキュリティ、DNS、ネットワークセキュリティ、番号資源管理などを扱い、設備を導入・運用する人の技術力を支えます。
ポリシーは誰が決める?
番号資源のポリシーは、APNICの管理部門だけで決めるものではありません。
地域コミュニティが参加するボトムアップの手続きで策定します。メーリングリスト、遠隔参加、オープンポリシーミーティングで提案を議論できます。
原文が示した流れに、合意の継続を確認する段階を補うと、次のようになります。
- 提案を提出し、公開会合の前に議論する。
- オープンポリシーミーティングで審議する。
- その会合と年次会員総会・会員会合でコンセンサスを確認する。
- 最終コメント期間を4〜8週間設け、その後、専門グループの議長が合意の継続を確認する。
- 執行理事会(EC)が承認を審議する。
- 承認されたポリシーを事務局が実施する。
Policy SIGには、番号資源に関心のある人が参加できます。APNIC職員や大手ISPだけの場ではありません。公開の政策議論への参加と、会員としての投票権は区別が必要です。
ここで扱うのは、IPv4の資格、IPv6の分配、移転、AS番号、登録規則といった運用に直結する課題です。
会員制度の仕組み
アジア太平洋地域でネットワークを運営し、番号資源を必要とする組織は、条件に従ってアカウントと会員資格を申請できます。
利用できるサービスや参加機会には、次のものがあります。
- 資格に応じたIPアドレス・AS番号のサービス。
- MyAPNICによる資源管理。
- 逆引きDNS。
- RPKIによる資源認証。
- 技術支援と研修。
- ポリシーの議論への参加。この議論は非会員にも開かれています。
- 条件と規則に従った会員会合での投票。
区分はAssociate、Very Small、Small、Medium、Large、Very Large、Extra Largeの七つです。Associateと、資源規模に応じた六つの区分からなります。
通常は課金対象のIPv4・IPv6保有量で決まります。両方ある場合は別々に計算し、高い方の区分を適用します。票数は順に1、2、4、8、16、32、64票で、会費などの支払状況が良好であることも必要です。
料金は改定されます。入会時、年次、AS番号、移転に関する費用は、その時点の料金表で確認してください。過去の記事は個別の見積もりにはなりません。確認した資料は末尾に示します。
アドレスを申請するには
手続きは資源の種類、量、申請者の条件によって異なります。
準備の基本的な流れは次のとおりです。
- 担当レジストリを確認する。ネットワークがAPNICの対象地域にあるか、地域に関する資格を満たすかを確かめます。
- 必要な資源を決める。IPv4、IPv6、AS番号のどれが、どの組み合わせで必要かを整理します。
- 条件を確認する。例えばLIRの初回IPv4申請では、/24の使用実績または即時需要と、1年以内に/23を使用する計画が求められる場合があります。すべての申請に共通する条件ではありません。
- 裏付け資料を用意する。法人の資料、ネットワーク構成図、保有アドレス、利用計画、上位接続先、経路情報など、求められるものを揃えます。
- 申請する。APNICは、その時点で適用されるポリシーに沿って審査します。
- 承認後、必要なアカウント・会員・資源関連の料金を支払う。
- 設定し、維持する。連絡先を更新し、必要に応じて経路、RPKI、逆引きDNSなどを整備します。
詳しい手順は、NRSのAPNICアドレス申請ガイドでも扱っています。
迷惑メールや不正アクセスをAPNICに止めてもらえる?
登録情報から該当ネットワークや連絡先を調べることはできます。ただし、APNICがそのネットワーク上の不正利用を直接調査・停止できるとは通常いえません。
APNICは、次のような立場ではありません。
- そのアドレスを使ってサービスを提供するISP。
- 該当サーバーのホスティング事業者。
- 捜査機関。
- インターネットのコンテンツ規制機関。
- そのアドレスの世界中の経路を制御する組織。
WHOISやRDAPにAPNICと表示されても、APNICがネットワークを運営したり、不正行為を行ったりしているという意味ではありません。登録体系上の関係を示しています。通常、通報は登録された不正利用窓口や技術担当者へ送ります。
APNIC・IANA・NRO・ICANN・NIRの違い
互いに関係する組織ですが、それぞれの役割は異なります。
| 組織・参加者 | 主な役割 |
|---|---|
IANA | 五つのRIRへの大規模な資源分配と、世界的な識別子登録の調整 |
APNIC | アジア太平洋地域のIPv4・IPv6・AS番号の管理 |
NRO | 五つのRIRに共通する活動の調整 |
ICANN ASO | グローバルな番号政策に関し、RIR体系とICANNを制度上つなぐ |
NIR | 一部の国・地域で登録や資源分配のサービスを提供 |
ISP・ネットワーク事業者 | 実際のネットワークを運用し、サービス・システム・顧客へアドレスを割り当てる |
IANAが大きな資源ブロックをRIRへ分配し、APNICが地域の資源をコミュニティのポリシーに沿って管理します。NROは五つのRIRを調整しますが、通常、個々の組織へ直接アドレスを発行しません。
APNICが事業者にとって重要な理由
インターネットは、多くの独立したネットワークの集合です。安定して通信するには、一意で正確に登録された番号資源が必要です。
APNICは、次のような形でその基盤を支えています。
- アドレス登録の重複や衝突を防ぐ。
- 責任の所在を確認できる記録を保つ。
- 接続先に依存しないアドレスの利用を支える。
- AS番号による自律的な経路制御を可能にする。
- IPv4からIPv6への移行を支援する。
- RPKIと経路登録サービスを提供する。
- 逆引きDNSを支える。
- 地域の資源ポリシー策定を進める。
- ネットワークコミュニティの運用知識を高める。
APNICは単なるデータベースやアドレス発行窓口ではありません。独立したネットワークを世界規模でつなぐための、管理・調整の仕組みの一部です。
仕組みを理解し、意思決定に関わる
APNICは、アジア太平洋地域のIPv4・IPv6アドレスとAS番号を管理する地域インターネットレジストリです。
資源登録に加え、WHOIS、RDAP、RPKI、経路情報、逆引きDNS、研修、コミュニティによる政策策定を支えます。
APNICを知る意味は、申請の時だけにとどまりません。経路設計、IPv6導入、登録情報の維持、セキュリティ、ネットワークの長期的な成長にも関わります。
よくある質問
APNICを一言でいうと?
アジア太平洋地域で、IPアドレスとAS番号の分配・登録を担う地域インターネットレジストリです。
政府機関なの?
いいえ。APNICは、会員を基盤とする開かれた非営利組織と説明しています。政府の一部局ではなく、組織の制度とコミュニティのポリシーに従って運営されます。
ドメイン名も管理する?
ドメイン名の登録は担当しません。APNICの対象はIPv4、IPv6、AS番号などの番号資源です。ドメイン名は別の登録・調整の仕組みで扱います。
IPアドレスの所有者はAPNIC?
APNICは、適用されるポリシーや契約に基づく資源の使用権を管理・登録します。これは一般的な物の所有権登記とは異なります。財産上の権利は適用法にも関わるため、この制度解説だけで結論づけることはできません。NRSの改革の立場も、現行制度の説明と分けて読む必要があります。
今でもIPv4をもらえる?
条件を満たせば申請できますが、在庫は限られています。最後の103/8プールからは各アカウント累計で最大/23です。追加分には適正な移転が必要になる場合があり、申請時点の条件と供給状況を確認します。
WHOISとRDAPはどう違う?
どちらも資源の登録情報を照会できます。WHOISは以前から使われる仕組みで、RDAPはより標準化・構造化された応答を返すため、ソフトウェアで扱いやすくなっています。
自分のネットワークにもAS番号が必要?
マルチホーム接続、独立した経路方針、他のASとの相互接続などが必要なら、AS番号が必要になる場合があります。割り当てを受けられるかは、APNICのその時点の条件で判断します。
確認した資料と補足
- 公式地域一覧は56の国・地域、四つの分区、七つのNIRを掲載しています。本版の中央アジアに関する訂正は、この一覧に基づきます。
- 資源条件はAPNIC-127 v015(2025年2月20日)を参照。/23は累計枠です。ポリシー策定手続きの合意形成と、会員投票は別のものです。
- 票数は会員区分と投票権によります。2026年3月6日の料金表では通常の初期費用は500豪ドルで例外があります。年次費用は資源量で変わり、課金資源がなければ500豪ドルです。計算基数は全会員共通の定額料金ではありません。
- 2026年の結果発表は二つの決議の可決を報告していますが、定款ページにはDRAFT表示も残っています。任期の新制度は2027年以降の選挙に関わるもので、過去の期限を現在の参加案内には使いません。
ネットワークを支える人の声を届ける
インターネットガバナンス、RIRの権限と責任、現行モデルの脆弱性を知ると、アドレス、顧客、事業継続に関わる判断が見えてきます。登録サービスの価値と、その権限への説明責任は、どちらも重要です。
リスクの理解や支援が必要なら、まずNRS Shieldを確認してください。代表への委任を希望する場合は、POAと代表権限を別途検討し、範囲・期間・撤回方法を決めます。入会や政策議論への参加だけで委任は成立しません。NRSのPOAが、APNICの特定の選挙に必要な代理投票の資格・書式・期限を自動的に満たすわけでもありません。
APNIC選挙の2024年と2025年の資料は、過去の記録として保存しています。現在の参加方法は、該当する催しの最新の案内で確認してください。
